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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)10845号 判決 2000年2月29日

甲本訴事件原告

岩川佳子

ほか三名

被告

前田謙治

ほか二名

甲反訴事件原告

前田謙治

被告

岩川佳子

ほか三名

乙事件原告

日動火災海上保険株式会社

被告

前田謙治

主文

甲事件について

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  被告前田謙治に対し、原告岩川佳子は、一九二万四二七二円、原告西本千賀子、同橋本博子、同岩川伸也は、各六四万一四二四円及びこれらに対する平成九年一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、本訴・反訴を通じ、原告らの負担とし、補助参加によって生じた費用は原告ら補助参加人日動火災海上保険株式会社の負担とする。

四  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

乙事件について

一  原告日動火災海上保険株式会社の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告日動火災海上保険株式会社の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件について

被告らは、連帯して、原告岩川佳子に対し、二九五〇万円、原告西本千賀子、同橋本博子、同岩川伸也に対し各一〇〇〇万円及びこれらに対する平成九年一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

被告前田謙治に対し、原告岩川佳子は、三五六万三〇六八円及び内金三二六万三〇六八円に対し、原告西本千賀子、同橋本博子、同岩川伸也は、各一一八万七六八九円及び内金一〇八万七六八九円に対し、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件について

被告前田謙治、同天雲産業株式会社は、連帯して、原告日動火災海上保険株式会社に対し、六三万七五〇〇円及びこれに対する平成九年一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、平成九年一月一〇日午後六時二〇分ころ、大阪市西区安治川二丁目四番先路上において、亡岩川順三(以下「順三」という。昭和一六年一月二五日生まれ)運転の普通乗用自動車(なにわ五六ゆ四九九一。以下「原告車両」という。)と被告前田謙治運転の普通貨物自動車(なにわ一一せ八三一二。以下「被告車両」という。)とが衝突し、順三が死亡した事故(以下「本件事故」という。)につき、甲本訴事件において、亡順三の相続人である原告らが民法七〇九条、七一一条、七一五条一項、二項、自賠法三条により被告らに対し、甲反訴事件において、被告前田謙治(以下「前田」という。昭和三〇年七月一七日生まれ)が自賠法三条、民法七〇九条により原告らに対し、それぞれ損害賠償請求をし、また、原告日動火災海上保険株式会社が亡順三との自動車車両損害保険契約により亡順三の相続人である原告らに支払った車両保険金五七万七五〇〇円につき、商法六六二条により損害賠償請求権を代位取得したとして、弁護士費用六万〇〇〇〇円とともに請求した事件である。

一  争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実

(一)  本件事故が発生したこと

(二)  原告岩川佳子が二分の一、その余の原告らが各六分の一の割合によりそれぞれ順三の権利義務を承継したこと

(三)  被告車両につき、自賠法三条所定の構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと

二  争点

(一)  本件事故の態様、被告前田の過失の有無(本件事故は、順三の一方的過失によるものか。)、過失相殺

(原告岩川佳子ら、原告日動火災海上保険株式会社の主張)

被告前田は、車長六メートルの被告車両を運転して、別紙図面一の<ア>から右前方向に進んで<イ>の位置(道幅五・八メートル)でいったん停止し、若しくは<ウ>の位置で停止していたところ、その後、左後方へ転回しながら後退して路外の被告天雲産業株式会社波除工場へ進入しようとしたが、道路の安全を確認して後退、進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、南方(右方又は右後方)への注意を全く欠いたまま、漫然、左後方へ転回しながら、後退して幅員約五・八メートルの車道(南北方向)を閉塞、遮断して進行した過失により、折から、同所南方から北方へ向かって進行してきた順三運転の原告車両前部に自車右側部を衝突させたものである。したがって、被告前田に専ら過失がある。

(被告前田、同天雲産業株式会社、同天雲正春の主張)

本件事故現場は、左右の見通しは悪いが、前方の見通しは良い道路である。順三は、南北道路を直進し、横断歩道標識がある交差点に差し掛かった際に、交差する南北道路については時速六〇キロメートル、交差する東西道路については時速六〇キロメートルの各速度規制があるのに、それに従わず、時速七〇ないし八〇キロメートルの高速度で本件交差点に進入し、進路前方を注視しておりさえすれば、南北道路の幅員は片側五・八メートルであるので、別紙図面二のとおり、車体の半分以上を歩道上に突っ込んでいた被告車両を回避して進行することが可能であったのに、回避することなく、同交差点北西角にある被告天雲産業株式会社波除工場の正面に向けて進行して、同正面に後ろ向きに突っ込む状態で停車していた被告車両右側部に激突したものである。したがって、本件事故は、順三の一方的過失に基づくものである。

(二)  原告岩川佳子らの損書額(同原告ら主張の損害額は、別紙原告岩川佳子ら主張損害額記載のとおりである。)

被告前田の損害額(被告前田主張の損害額は、別紙被告前田主張損害額記載のとおりである。)

原告日動火災海上保険株式会社の損害額

(被告前田の主張)

被告前田は、本件事故により、腰部捻挫(腰椎椎間板症)の後遺障害を残し、後遺障害等級一四級一〇号該当の事前認定を受けている。したがって、被告前田は、今後少なくとも一〇年間につき、五%の労働能力を喪失した。

(原告ら補助参加人の主張)

被告前田主張の腰部捻挫(腰椎椎間板症)は、椎間板の経年性変化(老化)によるもので、本件事故と因果関係がない。仮に、そうでないとしても、被告前田には、本件事故前から経年性変化があったので、被告前田のこの体質的要因が損害の拡大に寄与しているので、損害額の算定に当たり、減額要素として斟酌すべきである。また、被告前田は、本件事故当時、シートベルトをしていなかったため、損害の拡大を招いたというべきであるので、損害額の算定に当たり、減額要素として考慮すべきである。

第三争点に対する判断

一  まず、甲事件、乙事件に共通する最大の争点である本件事故の態様等について、判断する。

証拠(甲三、乙八ないし一三、被告前田)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  順三運転の原告車両は、南側から北に向かって進行し、本件交差点の横断歩道標識がある地点手前の停止線で停止することなく、また、左右の見通しが悪いにも拘わらず、速度を落とすこともなく、本件交差点に進入し、その後もそのままの速度で、やや左方向に傾斜しながら、前方の東西道路を横切って進行し、別紙図面一のとおり、同交差点北西角にある被告天雲産業株式会社波除工場の正面に向けて車体(車長六メートル)の半分以上を歩道上に突っ込んでいた被告車両右側部(なお、同車両が停止中か、後退中かは、定かでない。)に激突したこと、本件衝突地点の厳密な特定は困難であるが、原告車両と被告車両の衝突角度と衝突後の車両挙動から、歩道縁石付近ないし歩道縁石に至る手前の車道上と推定されること、そのため、被告車両は、その一部が車道上に突き出ていたものの、仮に原告車両が北方向へ直進するつもりであったとしても、被告車両と進行方向右側の植え込みとの間に通行可能な間隔があったこと

(二)  原告車両の前輪タイヤは、やや左に切られており、ハンドルは左に一八〇度回された状態で、握り輪の下半分が運転手との衝突により下方前方に変形していたこと

(三)  原告車両の損傷状態等を基にした解析の結果、原告車両の時速は、七〇ないし八〇キロメートルと推定されること

(四)  原告車両の制動装置は、ブレーキペダルにしっかりとした踏み応え感があり、ブレーキホースについても十分な油圧が発生し、制動装置に異常はなっかたこと、しかしながら、原告車両は、衝突の直前に、制動装置をかけた形跡はないこと

(五)  順三は、平成二年七、八月ころ、左大脳の脳梗塞等の症状が現れ、同年一一月、左下肢麻痺の症状が発現し、緊急入院し、そのころ以降、住友病院神経内科で治療を継続してきたが、その間、一過性脳虚血発作があったものの、脳梗塞の再発は認められなかった。本件事故当時は、脳梗塞の後遺症状を残して治療中であった。もっとも、再発防止の内服薬を服用していても、脳梗塞の再発の可能性がないとは言えない状態であった。なお、脳梗塞が再発すれば、無症状の場合もあるが、半身の運動麻痺、言語障害、不随意運動、転倒、めまい、意識喪失、もうろう状態、その他様々な神経症状が出現する可能性があるとされる。

(六)  順三は、本件事故当時、右半身の軽い運動麻痺と知覚障害があり、例え運転できても、急な危険の回避という事態に際しては、判断が不適切になる、あるいは、遅れる可能性が大きく、自動車の運転は危険であるという状態であった。なお、平成五年九月一六日、外来で、原告岩川佳子から、順三が自動車を運転していて、左に寄って行くことがあるとの話があったことからも、医師は、自動車の運転は危険であるから中止するよう説明した。

以上の事実によれば、順三は、原告車両を運転して、左右の見通しが悪いにも拘わらず、一時停止線で停止することなく、高速で本件交差点に進入し、全く制動装置をかけることなく被告車両に向かって一直線に進行して被告車両と衝突したことが認められるのであって、その運転の態様は、異常と言っても差し支えないというべきである。なお、前記認定によれば、被告車両の存在が原告車両にとって、危険を招来する態様のものであったというべき事情はない。他方、前記認定の事実によれば、順三は、本件事故当時、脳梗塞の後遺症状を残して治療中であり、右半身の軽い運動麻痺と知覚障害があり、自動車の運転は危険で、医師からも運転をしないよう指示を受けていたのであって、順三の前記の本件事故時の運転態様の異常さを併せ考えれば、本件事故の発生には、脳梗塞の再発又は前記の順三の右半身の軽い運動麻痺と知覚障害が影響した可能性が大きいと言わざるを得ない。以上によれば、本件事故は、順三の不随意的な、自制の利かない運転行為によるものと判断されるのであって、本件事故は、順三の一方的な過失によるものというべきである。

二  以上によれば、原告らの甲本訴事件の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。また、同様、原告日動火災海上保険株式会社の乙事件の請求も、理由がない。

三  そこで、次に、甲反訴事件について、判断する。

(一)  前記争いのない事実及び証拠(丙二、被告前田)によれば、被告前田は、本件事故の衝撃により、体が宙に浮き上がり、右のドアーに体をねじったまま右腰と右足が当たって止まったこと、右膝・腰部打撲の傷害を負い、平成一〇年七月一六日、腰部捻挫(腰椎椎間板症)の後遺障害を残したこと、被告前田は、上記後遺障害につき、後遺障害等級一四級一〇号該当の事前認定を受けたことを認めることができる。

(二)  被告前田は、本件事故により、次のとおりの損害を被ったことを認めることができる(以下、一円未満は切り捨て)。なお、原告ら補助参加人は、被告前田の損害の拡大等に椎間板の経年性変化の影響があり、これを損害額の減額要素として、考慮すべきであると主張するが、この点の詳細は必ずしも認められないので、その一般的な可能性の限度で慰謝料額の判断要素として控え目に考慮する。また、原告ら補助参加人主張の被告前田のシートベルトの不着用の点については、前記のとおり被告前田が被告車両を運転中であると断定できないし、また、本件においてシートベルトの不着用と結果発生との間の因果関係が明確でないので、これを損害額の減額要素とすることはできない。

(一) 通院慰謝料 九〇万〇〇〇〇円

証拠(丙二ないし四)によれば、被告前田は、前記負傷により、平成九年一月一〇日から平成一〇年二月二八日まで小川病院に通院し(通院実日数一二二日)、さらに、平成一〇年三月一二日から同年七月一六日まで河村クリニックに通院したこと、被告前日の神経症状はさほど深刻なものではなく、比較的軽微なものであったことを認めることができる。

以上の通院期間、椎間板の経年性変化(老化)による損害の拡大の可能性の存在、その他の事情に鑑み、被告前田の通院慰謝料としては、九〇万円をもって相当と認める。

(二) 修理費用 一一九万五九二〇円(乙三)

(三)  レンタカー代 一八万五四〇〇円(乙四)

(四)  レッカー代 六万三二九一円(乙五)

(五)  逸失利益 三五万三九三三円

証拠(丙二ないし四、被告前田)によれば、被告前田は、その後も変わりなく労務を継続し、本件事故後も減収することなく、収入を得ていること、被告前田は、本件事故のため入院をしたことはなく、同人の神経症状はさほど深刻なものではなく、比較的軽微なものであることが認められるので、被告前田の前記後遺障害は、症状固定(平成一〇年七月一六日)後、三年につき、二%の割合による労働能力の喪失があるというべきである。証拠(乙六)によれば、被告前田の平成八年度の平均収入は月額五四万一五四一円であることが認められる。以上によれば、被告前田の逸失利益は、次の計算式(ライプニッツ方式を採用)のとおり、三五万三九三三円となる。

五四万一五四一円×一二×〇・〇二×二・七二三二=三五万三九三三円

(六)  後遺障害慰謝料 八〇万〇〇〇〇円

後遺障害の内容・程度、椎間板の経年性変化(老化)による損害の拡大の可能性の存在その他の事情に鑑みれば、被告前田の後遺障害慰謝料としては、八〇万〇〇〇〇円をもって相当と認める。

(七)  以上合計 三四九万八五四四円

以上合計損害額は、三四九万八五四四円となる。

(八)  弁護士費用 三五万〇〇〇〇円

本件事故の内容及び態様、本件の審理の経過、認容額等に照らすと、被告前田の本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は、三五万〇〇〇〇円をもって相当と認める。

(九)  被告前田の損害額

以上によれば、被告前田は、本件事故により金三八四万八五四四円の損害を被ったということができる。

したがって、被告前田に対し、原告岩川佳子は、以上の損害額の二分の一の一九二万四二七二円の、その余の原告らは、各六分の一の六四万一四二四円の損害賠償義務をそれぞれ負担する。

四  よって、主文記載のとおり判決する。

(裁判官 中路義彦)

別紙原告岩川佳子ら主張損害額

原告らは、本件事故により、次のとおり、損害を被った。

1 亡順三の損害

(1) 治療費関係 83万3010円

(2) 逸失利益 7324万2170円

(3) 慰謝料 2400万0000円

(4) 損益相殺 83万3010円

(5) 以上差引合計 9724万2170円

(6) 原告らの相続額

原告岩川佳子(以上の2分の1) 4862万1085円

その余の原告ら(以上の各6分の1) 各1620万7028円

2 原告岩川佳子の損害

(1) 葬儀費 150万0000円

(2) 慰謝料 300万0000円

その余の原告らの損害

慰謝料 各200万0000円

3 以上合計

原告岩川佳子の損害 5312万1085円

その余の原告らの損害 各1820万7028円

4 損益相殺(既払額) 3000万0000円

原告岩川佳子 1500万0000円

その余の原告ら 各500万0000円

5 原告ら請求損害額

原告岩川佳子

(1) 損害額 2700万0000円(3812万1085円の内金)

(2) 弁護士費用 250万0000円

(3) 原告岩川佳子請求損害額 2950万0000円

その余の原告ら

(1) 損害額 各930万0000円(1820万7028円の内金)

(2) 弁護士費用 70万0000円

(3) 上記原告ら請求損害額 各1000万0000円

被告前田主張損害額

被告前田は、本件事故により、次のとおり損害を被った。

1 慰謝料 150万0000円

2 修理費用 119万5920円

3 レンタカー代 18万5400円

4 レッカー代 6万3291円

5 逸失利益 258万1525円

6 後遺障害慰謝料 100万0000円

7 弁護士費用 60万0000円

8 以上合計 712万6136円

原告岩川佳子負担額(2分の1) 356万3068円

その余の原告ら負担額(6分の1) 118万7689円

別紙1

別紙2

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